出版物
尊経閣善本影印集成 第十二輯 平安文学(全10冊) (そんけいかくぜんぽんえいいんしゅうせいへいあんぶんがく)
本体予価303,000円+税
初版発行:2025年12月20日 ISBN 978-4-8406-2612-5 C3395
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【内容説明】土佐日記 藤原定家筆 一帖 文暦二年(一二三五)写 【国宝】
文暦二年(一二三五)藤原定家は蓮華王院に伝来した紀貫之筆本を書写する。七十四歳という老齢を押して二日間のうちに写したという。その奥書には、装丁、料紙、紙数、法量、書写の形式などが記されており、貫之自筆本の姿を彷彿とさせる。また、巻末に模写された貫之の筆跡は、貫之の自筆資料が確認されていない現在極めて貴重。定家息為家が貫之自筆本を忠実に書写しているのに対して、本書には独自の校訂が加えられていて、定家が『土佐日記』をどう読もうとしていたのか、知ることができる。仮名遣いも改めてられており、定家仮名遣いの研究上、重要な資料となっている。
枕草子 四帖 鎌倉時代中期写 【重要文化財】
伝二条為氏筆、鎌倉時代中期の書写。本文異同の錯綜極まる『枕草子』諸本にあって、定家本(三巻本)・能因本・堺本と併設される、前田家本という一種がまさに今回影印化される一本である。それら三種のいずれとも異なる独自本文を大量に有し、かつ同種の伝本は他に一本もないという、実質上の天下の孤本として比類なき貴重さを誇る。現存の四半本四帖はそれぞれ「は型」章段・「もの」型章段・随想的章段・日記的章段でまとめられ、各帖内部でもかなり整然とした章段配列とされている。かつ改行の仕方や項目の配置の仕方、字間の取り方といった当該本の書写形式が、そのまま本文・章段・構成等の解釈や把握に結びついていくところも存する。換言すれば活字化・校訂化される以前の当該本の姿をよくよく観察・検討・考察等していくことによって、諸本中に屹立する「前田家本」の深い理解が初めて可能になるはずだということである。
源氏物語 定家本【重要文化財】
花散里・柏木の二帖。青表紙本系統の源流の一つであるのみならず、あまたの『源氏物語』諸本中書写時期・書写者の判明する最古写本として価値が高い。高解像度の影印により本文の様態・書き入れ・訂正等が確認でき、『源氏物語』本文の分析や古典学者藤原定家の書写活動を具体的に解明する上で大きな意義がある。書誌学的徴証から、若紫・花散里・行幸・柏木の四帖が過去のある時期に一括保管されていたことがわかり、柏木の料紙検討によって、少なくともさらに一帖を加えた五帖がまとまっていたことを推定できる。
源氏物語 伝為家筆本
既に簡潔な紹介と校合による本文の提示は行われているが、典籍それ自体の具体相把握や本文・書き入れ・訂正等の確認も不可能であったので、高水準の複製により飛躍的な研究の進展が期待される。鎌倉時代中期に遡る青表紙本七帖・河内本五帖は、伝本研究資料として極めて貴重であり、静嘉堂文庫に蔵される僚巻と合わせて得られる知見が多い。
源氏物語 伝為氏筆本
椎本一帖。伝為家筆本と同様、簡略な説明と校異提示のみがなされており、本文の具体的なあり方は今回の複製によって初めて明らかとなる。鎌倉時代中期の青表紙本として本文研究上の価値が高いのみならず、伝為氏筆本は打ち紙二枚貼り合わせと推される料紙を用い、また中世の一般的な六半升形本よりかなり大きいので、書誌学的にも興味深い伝本である。
源氏物語 伝国冬等筆本
宇治十帖のうちの六帖分が伝存。総角巻のみ伝津守国冬筆、他の東屋・浮舟・蜻蛉・手習・夢浮橋巻は伝西山慈寛筆。南北朝時代を下らぬ書写。本文は河内本。『源氏物語大成』校異篇に採用されてはいるものの、書物としての姿を含めた全貌が明らかとなるのは今回が初。すなわち各帖縦三十二㎝に届かんとする格別の大型本であり、そのような書型、また河内本の本文を有する点で、尾張徳川家旧蔵本や、近年注目を集める伝藤原為家筆本(零本・断簡として現存)との親近性・関連性が俄然注目されてくる。読解を助ける朱点や種々の注記も施されており、『源氏物語』をどのように読もうとし、読ませようとしていたのかも垣間見られるであろう、非常に有益にして示唆に富んだ古写本である。
源氏物語釈
藤原伊行による本書は現存最古の『源氏物語』注釈書。現存する伝本は実質四本のみであり、かつその四本のいずれにも多大な本文異同が存する。それらのうちの一本たる前田家本は伝二条為定筆の枡形本一帖、南北朝時代の書写であり、冷泉家時雨亭文庫蔵本と同じかほぼそれに次ぐ古写となる。しかも四本中で最も記載量が多いという点で性格や位置づけを巡っての議論も存し、絶対的な説を見ない。他本はさておき、前田家本それ自体でも、注の一部として和歌等が引かれるべきところで空行(欠落)状態になっていたり、明白な後補料紙が挿入されていてそこに脱落が存することが知られたりと、原本それ自体の姿を視認することによって初めて自覚化され問題化され得る箇所が随所に存する。今回の影印は『源氏物語釈(源氏釈)』に関するいっそうの厳密精緻な研究の進展をもたらし得るはずである。
源氏物語系図
『源氏物語』の登場人物を系図形式で示す。三条西実隆が青表紙本系統の『源氏物語』に対応させるべく整備した系図以前に成立したものを古系図というが、本書も古系図のうちの一本。序文、「光源氏系図」「不入系図輩等」「此外有哥無名輩等」「きぬのいろを人ざまによりてさだめたる事」「人々のかたちをはなによそへたる事」「ゐどころの事」及び巻名目録から構成され、諸本中でもよく整備された伝本。所載人数は先行する九条家本(東海大学附属図書館桃園文庫蔵)に比して増補され、人物の名称も変更されている。鎌倉時代中期写。伝二条為氏筆。貞享二年(一六八五)冷泉為綱加証奥書本。『源氏物語大成』に翻刻がある。
原中最秘抄
源光行の残した『水原抄』草稿(佚書)を子の親行がまとめ、孫の聖覚、曽孫の行阿等が加筆した河内方による『源氏物語』研究を集大成した注釈書。伝本には耕雲明魏(花山院長親)が抄出した略本系統と広本系統とが知られる。広本系統では、従来、阿波国文庫旧蔵本を底本とする『源氏物語大成』翻刻が多く用いられてきたが、同本は戦後徳島県立光慶図書館(現在徳島県立図書館)の火災にて焼失。金子元臣氏蔵本も戦火に失われ、現存する広本系統は国立歴史民俗博物館蔵本と本書のみ。両本は同時期の書写であるが、本書は歴博本の誤りを正すことができる点が少なくなく貴重。
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