出版物
尊経閣善本影印集成 第五輯 古代法制史料(全5冊) (そんけいかくぜんぽんえいいんしゅうせい)
第35冊 交替式・法曹類林 本体24,000円
(第1回配本2005.1)
第36冊 政事要略 本体26,000円
(第4回配本2006.2)
第37冊 類聚三代格一 本体33,000円
(第2回配本2005.6)
第38冊 類聚三代格二 本体33,000円
(第3回配本2005.8)
第39冊 類聚三代格三 本体33,000円
(第5回配本2006.8)
本体149,000円+税
初版発行:2005年1月31日 B5判・A4判横本・上製・貼函入・B5判平均320頁・A4判横本平均350頁、総1,668頁 ISBN 4-8406-2295-7 C3321
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【内容説明】第五輯 古代法制史料
国立歴史民俗博物館教授 吉岡眞之
日本古代史の研究は「律令格式」を中心とする法制史料の分析・研究を抜きにしては成り立ちがたい。それは主として古代史料の残存状態が法・政治の分野に偏しているという事情によるものであり、古代社会の構造や経済活動の実態を解明するに当たっても法規定の内容分析が不可欠の回路とならざるをえないのである。
日本古代法の基本は、七世紀後半以降、中国に学んで制定された「律令」であるが、社会の変化とともに「律令」の規定を修正する「格」がしきりに公布され、また基本方針を規定するにとどまる「律令」の施行細則として「式」が整備されていくことになる。それらは九世紀から一〇世紀にかけて「弘仁格式」「貞観格式」「延喜格式」としてまとめられ、また律令官人の交替手続きを規定した『延暦交替式』『貞観交替式』『延喜交替式』もほぼ同時期に編纂されている。このうち「格」は一一世紀に『類聚三代格』として再編・統合されて政務に必携の書として利用され、さらに平安時代後期にかけては『政事要略』『法曹類林』などの浩澣な政務参考書も編纂されている。これらの史料は現在、『弘仁格』の目録である『弘仁格抄』、『類聚三代格』の一部、『弘仁式』の一部、『延喜式』、『延暦交替式』、『貞観交替式』下巻、『延喜交替式』、『政事要略』の一部、『法曹類林』の一部が伝わっており、いずれも「新訂増補国史大系」に収められて広く利用されている。
日本古代史の実証的研究は第二次大戦後に急速に発展し、多くの研究成果が公表されたが、近年はそれに対する詳細な批判的再検討が進められており、その過程で史料への厳しい目が注がれるようになってきた。このような動向は必然的に良質の史料への欲求を拡大させ、新たに校訂を加えたテキストを作成し、あるいは重要な写本を影印によって刊行するなどの企てが各方面で行われている。このような研究の動向の中で影印刊行される尊経閣文庫所蔵の『類聚三代格』『貞観交替式』『延喜交替式』『政事要略』『法曹類林』はいずれも古代法制史料を代表する重要史料であるとともに、その最も良質な写本としての地位を占めている。これの刊行は、優れた校訂によって高い評価を得ている「新訂増補国史大系」本の再検討を通じて新たな研究成果を生み出す契機となるであろう。
【目次】『交替式』
律令官人の職務交替の際の事務引継ぎ手続きなどに関する法令集である。八世紀に「交替式」と称する私撰の書が存在したというが、内容に不備が多く、このため勘解由使の手によって延暦二十二年(八〇三)にいわゆる『延暦交替式』(原題『撰定交替式』)が編纂され、桓武天皇の裁可を得た。『延暦交替式』は国司の交替のみを対象としていたが、後に対象を中央官人にも拡大し、貞観九年(八六七)ころに『貞観交替式』(原題『新定内外官交替式』)が、延喜二十一年(九二一)に『延喜交替式』(原題『内外官交替式』)が、それぞれ勘解由使により編纂された。
尊経閣文庫の『交替式』は『貞観交替式』下巻と『延喜交替式』を合綴した袋綴じの冊子本一冊である。『貞観交替式』は上巻を失っているが、両書ともに室町時代後期の書写と見られる現存最古の写本である。流布諸本の祖本の位置にある最も重要な写本であり、「新訂増補国史大系」本の底本としても用いられている。もと三条西家に伝来していたが、貞享二年(一六八五)に金沢藩主前田綱紀の得るところとなり、今にいたっている。
『政事要略』
律令格式の条文、和漢の書籍などを広く収集して分類し、政務の参考とした法制書で、編者は明法博士令宗(惟宗)允亮である。藤原実資の日記『小右記』の目録である『小記目録』によれば、本書は長保四年(一〇〇二)にひとまず成立したと見られるが、その後も允亮による追記がなされているようである。本書編纂の契機には藤原実資の関与があったと考えられている。
本書はもと百三十巻から成り、「年中行事」「公務要事」「交替雑事」「糾弾雑事」「至要雑事」「臨時雑事」などに分類されていたが、現在は「年中行事」「交替雑事」「糾弾雑事」「至要雑事」のうちの二十五巻分を残すのみである。本書は成立後程ない頃から、藤原実資の小野宮流に相伝された「一本書」であって他家には存在しないといわれ、あまり広く流布することがなかったらしい。恐らくそのこととも関わって、古写本の伝わるものは少なく、鎌倉時代書写の金沢文庫旧蔵本および、室町時代後期の写本といわれる穂久邇文庫本が知られるに過ぎない。尊経閣文庫には金沢文庫旧蔵の巻二十五・六十・六十九の三巻が伝存する。
『法曹類林』
政務の参考とするため、法家の勘文や問答を分類集成した法制書である。法家の架空の議論ではなく、現実的で具体的な内容を持つ点で貴重な史料である。編者は藤原通憲(信西)とされているが、通憲個人の手になると見る点については異論もある。成立年次は不明であるが、通憲が関与しているとすれば、その成立は十二世紀中葉と考えられる。
本書はもと二百三十巻とも七百三十巻ともいわれるが、その大半は散逸した。「新訂増補国史大系」には金沢文庫旧蔵の巻百九十二(現内閣文庫所蔵)・巻百九十七(現内閣文庫および尊経閣文庫所蔵)・巻二百(現内閣文庫所蔵)、および宮内庁書陵部所蔵本を底本とする巻二百二十六の四巻を収録しているが、巻二百二十六は全体としては『明法肝要鈔』と称する書物であり、そこに『法曹類林』巻二百二十六が引用されたものであることが太田晶二郎により指摘されている。また近年、巻次不明の断簡も紹介されており、「新訂増補国史大系」本の再検討が求められている。
尊経閣文庫本巻百九十七の巻頭第一紙は早くに本体から剥離し、今は内閣文庫に収蔵されている。このため本巻は書名も明らかでないまま、ながらく『政事要略』と見なされてきたが、後に和田英松がこれを『法曹類林』と考定し、内閣文庫所蔵の第一紙と接合することを明らかにしたことにより世に知られることとなった。現在、尊経閣文庫本は内閣文庫所蔵の第一紙を影写して補っている。
『類聚三代格』
平安時代に編纂された法令集。九~一○世紀に編纂された『弘仁格』『貞観格』『延喜格』は官司別分類の法令集であったが、本書は三代の格を神社事・国分寺事などの事項別に再編成したものである。編者は不詳であるが、長保四年(一〇〇二)から寛治三年(一〇八九)の間に編纂されたと推定されている。『弘仁格』の目録の『弘仁格抄』を除いて、三代の格の写本は伝わらない。
『類聚三代格』は三代の格の内容を伝える貴重な法令集である。十二巻本と二十巻本がある。尊経閣文庫本は、前田綱紀が三条西家から入手した写本であり、十二巻本系と二十巻本系の巻からなる。明治時代に二一巻に編成されている。巻一後半・巻四・巻七・巻十は、享禄年間に三条西公条が大永年間の具注暦の裏を反して伏見宮本を書写したもので、「享禄本」と称されている。また、尊経閣文庫には、三代格復原研究の重要史料とされ収集当時の状況を伝える「巻子本類聚三代格調書」がある。
【所収書目】
「交替式」 室町後期写 一冊
「法曹類林」 嘉元二年写 巻一九七残巻(重要文化財) 一巻
「政事要略」鎌倉初期写(重要文化財) 三巻
「類聚三代格」 二十一巻 享禄本
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